契約書は婚姻届

4.借り人競争

 昼の十二時を過ぎた頃、株式会社『With U』社員交流球技大会午前の部を終えた社員達は、各々体育館内で食事休憩を取り始める。
「あー、もう、なんなのあのチーム!」
「まぁまぁ志保、そんなに怒らないで」
 響子は、友人の志保と共に、他の総務部女性社員メンバー達とお喋りをしながら昼食を食べていた。
 しかし、楽しい昼食のはずが、怒りが収まらない志保を宥める事に、響子は先程から手を焼いている。
 志保がここまで怒る理由。それは、午前に行われた女子バレーボールの試合結果が原因だった。
「伊藤さんが怒る気持ちも分からないでもないわね。あんなのが相手じゃ……勝ち目無いし」
 総務部女性メンバーの中で一番の先輩であり、響子達皆の指導者となっている西村恵利子は、ここへ来る途中のコンビニエンスストアで買ってきたと思われるおにぎりを頬張りながら、志保の言葉に同意する。
 午前中に行われた女子バレーボールの試合。響子と志保が所属するチームは三回戦で相手チームに大敗してしまった。だからと言って、彼女達のチームが決して弱かったとわけではない。
 運動があまり得意ではない響子が居るものの、彼女の友人である志保は運動神経が良い。
 そして、チーム内にバレー経験者が二人、そして他のメンバーもそこそこ運動が出来る良いチームだった。
 響子達が三回戦であたった相手チーム、そのメンバーには、なんと学生時代、企業チームからスカウトが来た程の実力者居たのだ。
 試合の最中、他のメンバーの足を引っ張らないように、響子も必死になってボールを繋いだが、彼女達の努力も虚しく、勝者となったのは相手チームだった。
「優勝賞品、超高級焼き肉店の食事券って言うから頑張ってたのに。あのチームなら、もしかしたら優勝出来るかもって思ってたのに」
「伊藤先輩達はまだいいですよ。私達のチームなんて初戦敗退なんですから」
 優勝賞品の食事券を手に入れられなかった事が余程悔しいらしく、未だどんよりとした空気を周囲に漂わせる志保を、今度は後輩達が慰め始める。
 そんなにあの焼き肉店に行きたかったのかと、友人の様子に苦笑しながら、響子は自身の弁当箱に入った卵焼きを一口食べ、視線を体育館内へ向けた。
 この球技大会に来ているのは何も社員だけでは無い。社員である父親の応援のためにやってきた、妻や子供達の姿もある。
 事前に申請さえすれば、家族ぐるみ、知り合いの応援も可能。体育館内は、まるで小学生の運動会のような盛り上がりを見せている。
「私達は全員試合終わっちゃったんだし、あとはのんびり他のチームの試合でも見てましょう」
 ペットボトルに入ったお茶を飲みながら、午後は皆で試合観戦をしようと西村が口を開く。
 交流会期間中でも、緊急の用事が出来た時のみ、社員の途中帰宅を許されている。
 そんな用事など無い彼女達にとって、勝ち上がったチームの試合観戦をするというのが午後の予定になるのだ。
「あれ? お昼休憩の後、試合じゃないプログラムがありますよ?」
 不意に、後輩の女性社員が声を上げた。その声に反応し響子が視線を向ければ、体育館到着時、全員に配られる交流会冊子を広げ、女性社員は不思議そうに首を傾げている。
 女性社員の言葉に反応し、他の総務部女性メンバーが、何事だと彼女の周りへ集合し、その手に握られている冊子の中身を覗き込んだ。
「借り人……競争? 何これ、今までこんな競技やった事無いって」
「人を借りる、のかな? 借り物競争の人バージョン、みたいな?」
 初めて聞く競技名に首を傾げる志保と、彼女の言葉にどんな競技かを想像する響子。
「私が勤めてから、何回か運動系の交流会はあったけど……初めて聞くわね。誰か、この競技出る人居る?」
 この中で一番勤務年数の長い西村の言葉に、響子達後輩メンバーは全員が首を横に振る。どうやら、彼女達の中に借り人競争に参加する者は居ないようだ。
「どうしてこんな競技……っと、ちょっとすみません」
 今年になって、どうしてこんな耳慣れない競技がプログラムに入ったのかを考える響子。その時、不意にジャージのポケットに入れていた彼女の携帯電話が震えた。
 響子は仲間達に断りを入れると、皆から少し離れた体育館隅へ移動し、ポケットから携帯電話を取り出す。
 二つ折りになった携帯電話を開き画面を確認すれば、今の振動はメールの着信を知らせるものだと知った。
「あっ」
 メールの受信ボックスを開いた彼女は、その差出人の名前を目にし、小さく声を上げる。そして、届いたメールを開き、その文面に頬を緩めた。
『試合お疲れ様。最後惜しかったね。相手チームのリーダーの子、他の企業からスカウトされた子なんだって。誠司が言ってた。響子ちゃんはもうご飯食べたかな? どうせなら響子ちゃんとご飯食べたかったよー。誠司の顔見ながらご飯なんて嫌だー』
「……ふふ」
 所々驚きや不貞腐れた顔文字を使ったそのメールは、まるで自分のすぐ目の前で大樹が喋っているのではと思う程彼らしいメールだった。
「大樹さんも試合お疲れ様です。午後も応援してますね。ご飯は、同じ部署の女子グループで食べました。そんな事言ってたら、誠司さんにまた怒られちゃいますよ……っと」
 大樹へ返信メールを打ち終わり、文面に間違いが無いか、呟くような声で読み上げ確認する響子。確認を終えた彼女は、そのままゆっくりと送信ボタンを押した。
『そんなに心配なら、近くで応援しなさいよ。響子の応援があれば、大樹さんもっと張り切るよ、きっと』
 友人に言われた言葉を思い出し、互いに堂々と相手の事を応援出来たらどんなに良かったかと、響子はふと、そんな事を考えてしまう。
 響子は夫のため、大樹は妻のため、堂々と大きな声で声援を送りたい。そう思いながらも、二人が互いを心の中でひっそりと応援している理由。
 来年の三月。響子が退職するその日まで、自分達が夫婦だとバレてはいけない。この約束を守るため、二人は自身の気持ちをグッと我慢した。
「なーにニヤニヤしてんの」
 自分の試合は終わってしまったが、まだ大樹の試合が残っている。もしかしたら優勝も夢じゃないかもしれない。午後は彼を精一杯心の中で応援しよう。
 大樹から届いたメールを再度見返していると、背後から聞こえた友人の声と共に、響子は頭に軽く衝撃を感じた。
「いたっ」
 反射的に痛いと声を発しながら後ろを振り向くと、そこには何やら意地の悪い笑みを浮かべた志保が立っていた。
「別にニヤニヤなんてしてないわよ」
「してたしてた。そんなにニヤニヤする程、愛しの彼氏様からのメールが嬉しかったか」
 ニヤついていないと否定する響子の反応に、何故か満足そうな顔で数回頷く志保。
 どうやらすべてお見通しらしく、大樹からメールが来た事を彼女はあっさりと言い当ててしまった。
 しかし、志保も友人達の事情は理解しているので、大樹の名前や旦那という単語の代わりに彼氏と言い換えている。
「…………」
 次の瞬間、響子の頬はほんのりと赤く染まり始め、彼女は居心地が悪そうに友人から目を逸らした。
 どうやら、志保の言った事は当たっていたらしい。例えすぐ近くに居る事が出来なくても、妻の事を気にかけこうしてメールを送ってくれる。そんな大樹の心遣いが、とても嬉しかったのは事実だ。
「え、水越先輩彼氏居たんですか?」
「ん? 確か、前に別れたって言ってなかった?」
「もしかして、新しい彼氏ですか?」
 友人のからかうような態度に文句の一つでも言ってやろうと顔を上げれば、いつの間にか響子の目の前には総務部の女性メンバーが集合していた。
「えっ!? あ、えっと……」
 いくつになっても、女性というものは恋愛話が好きらしい。その後、休憩時間が終わるまでの間、響子の自由が奪われたのは言うまでも無いだろう。



「さぁ皆さん、お昼を食べて充電出来ましたか? それでは、午後の部も張り切っていきましょう!」
「…………」
 午後の部開始を告げるアナウンスをぼんやりと聞きながら、響子は酷く疲れた様子で、体育館の壁に凭れ座り込んでいた。
 何故あの人はあんなにテンションが高いのだろうと、自分とアナウンスをする社員のテンションの違いに、響子は僅かなイラつきを感じる。
「ほら、飲み物貰ってきてあげたよ。さっきあんたお茶飲んでたから、スポーツドリンクにしてみた」
 スポーツドリンクの入ったペットボトルを両手に戻ってきた志保が、そのうちの一本を響子の目の前へ差し出す。
「……ありがとう」
 差し出された飲み物を受け取りキャップを開けると、響子はそれをゴクリゴクリと数口飲み込んだ。
「随分お疲れの様子だね」
「誰のせいよ、まったく……」
 自分と並ぶように座り込んだ志保の言葉に、響子は不貞腐れた様子でボソボソと文句を呟く。
 志保の口から告げられた響子の彼氏発言に食いついた総務部女性メンバー達。あの後、彼女達から質問責めにあった響子は今、酷く疲れた様子で体育館の隅に座り込んでいる。
 まさか、自分はこの会社の副社長をしている男の妻ですと言うわけにいかないため、響子は頭の中で『水越響子の彼氏』を必死に作り出した。
 しかし、あまりに現実とかけ離れた彼氏を作り出しても、後に面倒な事になりそうだと考えた彼女は、基本的なものは大樹のプロフィールをそのまま引用する事にした。
 自分より年上、その差は十歳程の男性。職業は会社員。役職があると言ってしまえば、皆の好奇心を刺激してしまうと思い、あえてその事は秘密にする。
 彼のプロフィールを教えれば、次に皆が期待するのはその外見。写真は無いのかと騒がれるのは当然の流れだった。
 写真は一枚も撮った事が無いと響子が答えれば、彼女達からは不満そうな声が上がった。
 えー、と言われた所で、本当に写真など無いし、万が一あったとしても見せるわけにはいかない。
 そう言えば、大樹さんと写真って撮った事無いな。ふとそんな事を思いながら、響子は騒ぐ仲間を志保と共に宥めた。
 軽くプロフィールを教えたくらいで解放してもらえる。やっとこれで質問責めから解放される。
 どうにか乗り切る事が出来たと、響子は内心ホッと息を吐いた。
『それじゃ今度会わせてよ、水越さんの彼に』
 しかし、ホッとしたのも束の間、先輩である西村から、最後の最後に大きな爆弾が投下された。
 写真ですら無理なのに、実際に本人に会わせる事など不可能に決まっているじゃないか。
 西村の言葉に、響子は必死に平静な態度を装う。しかし、心の中に居るもう一人の自分が、無理無理無理と全力で首を横に振っているのを感じていた。
『あ、その……か、彼は、凄い人見知りなんです。だから、えっと……会うのはちょっと、無理、かと』
 以前友人達に引っ越しの連絡をした時と同じように、極度な人見知りの彼氏と嘘を吐き、この場をどうにか切り抜けようとした響子。
『水越先輩より十歳年上、会社員、でも極度の人見知り……先輩、それって騙されたりしてるんじゃ』
『先輩、そんな変な人と付き合っちゃ駄目です! 何かあったら大変です。すぐに別れてください!』
 響子が口にした言葉から想像した人物が、想像以上に駄目な男だったらしい。後輩の女性社員達から、次々と別れた方がいい、騙されている、と響子を心配する声が上がる。
 その後、なんとか後輩達を宥める事に成功した響子は、他の皆とは離れ、志保と共に休憩していた。
「散々な事言われてたね、彼氏様」
「ちょっとくらい助けてくれてもよかったじゃない」
 先程の事を思い出したのか、志保が可笑しそうにクスクスと笑う。その様子に、不満げに口を尖らせる響子の頬をツンツンと突きながら、再び志保は口を開いた。
「あそこで私がフォローして、万が一私が会った事あるってバレたらどうするの。伊藤先輩だけずるいって言われるのが目に見えてるわ」
 確かに志保の言う通りだ。もしあの場で志保が大樹に会った事があると判明すれば、より話がややこしくなったに違いない。
「はぁ」
「まっ、終わった事にいつまでも溜息吐いてないで、午後もしっかり応援しなさいな」
 溜息を吐く友人の肩を数回叩き、疲れた顔を見せる響子を励まそうとする志保。そんな彼女の様子に、響子は少しばかり苦笑いを零し、再び持っていたペットボトルに口をつけた。



 響子達が話している間に、体育館内には午後の部最初の競技説明が始まっていた。
「皆さん! 白熱した試合は一時中断し、ちょっとしたお遊び企画をお楽しみください! その名は借り人競争! この借り人競争とは、その名の通り、人を借りてくる競技です。各コースに用意されたお題に合った人物を……」
「あ、大樹さんだ」
「えっ?」
 ずっと座っているのも良くないと、その場に立ち上がり、壁に背を預けながら話をしていた響子と志保。
 すると、不意に志保が声を上げ、とある方向を指差す。彼女の声に反応した響子は、志保が指差す方向へ視線を向けた。
 彼女達の視線の先には、男女それぞれに列を作って並ぶ社員達の姿があった。どうやら、次の種目である借り人競争に選手として出場するメンバーらしい。
 その中に、数人の男性社員と話をしている大樹の姿を発見する。
「うわ、大樹さんこれにも出るの? 頑張ってるねー、朝あんなに嫌がってたのに」
「あははは……」
 響子は、驚きながらも周囲を気にし小声で喋る友人の言葉に、ぎこちなく笑う事しか出来なかった。彼女は苦笑いを浮かべながら、今朝自宅のあるマンションで起こった出来事を思い出す。
 社員交流球技大会に参加する事となった響子と大樹。本当なら、一緒の家に住んでいる者同士、一緒の車で移動した方が効率が良いのだろう。
 しかし、社員達に対し自分達の婚姻関係を隠している現状、二人が一緒の車に乗って体育館へ向かう事は出来ない。
 そこで響子は、友人である志保の提案で、彼女に、自宅マンションまで自分を迎えに来て貰ったのだ。
 大樹は自身の所有する車で体育館へ向かい、響子は志保の運転する車に乗って体育館へ向かう。この手段を使えば、彼女達の関係が会社の人間にバレる事は無い。
 初めは、それぞれ別の車で向かおうかと考えていた響子。しかし、交流会当日の事を志保と話していた時、そんな事をするなら自分が迎えに行くと志保が言ってくれたため、響子はその言葉に甘える事にした。
『……結局風邪引けなかった』
 前日の体を張った作戦は見事に失敗し、朝いつも通りに目覚めた大樹のテンションは、起きてからずっと低いままだ。
 響子はそんな大樹を励まし、彼が身支度をし食事を摂るのを見守り、家の外へと引っ張り出した。
『響子ちゃーん、やっぱり今日休もうよー』
『ここまで来て何言ってるんですか。もうジャージに着替えて荷物も持って、後は行くだけなのに』
『だってさー、何で休みの日にわざわざ運動しなきゃいけないの? 俺そこまで運動好きじゃないよ?』
『私だって好きじゃないです。でもやるんです。ほら、エレベーターのドア開きますよ』
 二人が乗ったエレベーターのドアが、一階へ到着すると同時に開く。そして、響子はすぐさま大樹の背後へ回り、彼の背中を力いっぱい押し始めた。
『大樹さん、歩いてくーだーさーいー』
『いーやーだー』
 エレベーターの外へ出たくないとばかりに、開いたドア部分に両手でしがみ付き身体を固定させる大樹。
 そんな夫婦の様子に、一瞬驚きのあまり目を見開くも、その場に佇んだまま見つめる影が三つあった。響子を迎えに来た志保と、コンシェルジュの木村と工藤である。
『……はぁ』
『…………』
『……お二人共、何やってるんですかね』
 しかし次の瞬間、志保は呆れたように溜息を吐き、木村は無言でその様子を眺め、工藤は不思議そうに首を傾げる。
「志保にまで迷惑かけちゃってごめんね」
 その後、断固として動こうとしない大樹を見兼ね、志保達三人も協力し彼をエレベーターの外へ連れ出し、無理矢理車に乗せたのだった。
 朝の騒動を思い出し、ペコリと頭を下げ謝罪する響子。その様子に、気にしないでと志保は苦笑するのみ。
「それでは、第一組が間もなくスタートします!」
 次の瞬間、アナウンスの声と共に一際盛り上がる体育館内の歓声が聞こえ、響子達は一旦お喋りを中断し、借り人競争なる未知の競技を見物する事に決めた。
「大樹さん、いつ出るんだろ。もうちょっと前に行った方がいいかな……」
「うーん、前に行ってみる? 見物人多いから大変そうだけど」
 大樹の応援をするため、見物している社員達の間をすり抜け、前方へ行くかどうかを相談し始める二人。
 その間にも、競技の最終ルール確認のためのアナウンスが、体育館内に響き渡る。
 この競技は、その名の通りお題となる紙に書かれた条件にあてはまる人物を見つけ、その人と一緒にゴールを目指す単純なものだ。
 出場者は男女別になり、それぞれ四人一組で決められたレーンを走り対決する。ゴールした順に順位がつけられるが、それが球技種目に影響する事は全く無い。
「たった今、第一組スタートしましたー!」
 ホイッスルの音が聴こえたと思った瞬間、続いてアナウンスの声が響子達の耳に届く。
「あっ、早くしなきゃ」
「そうだね、早くしないと……っと、よしこれでオッケー」
 響子と志保は見物する社員達の間を抜け、競技が見やすい場所へ移動する。
「あっ」
「おっ」
 競技の様子がよく見える位置へ移動した二人は、自分達の視線の先に居る人物に気付き、ほぼ同時に声を上げ、すぐに互いの顔を見合う。
 なんと、男性社員の第一組に大樹の姿があったのだ。
 他のレーンを走る社員達と共に、お題の紙が入った封筒のある場所を目指し走るその姿を、響子達は自然と目で追いかける。
 封筒が置いてある場所に到着した大樹は、自身の走るレーンの床に置いてある封筒を拾い上げ、中に入った紙を取り出した。そこに書かれたお題を確認しているのだろう。
 大樹が自身に与えられたお題を確認し、その条件に合った人物の求め走り出す。
「……ねぇ、志保」
「ん?」
「なんか、こっちに走って、きてない?」
「うん、めっちゃ走ってきてる」
 走り出した大樹が向かったのは、なんと響子達が見物しているエリアだった。
 こちらに条件に合う人物が居るのだろうかと、響子と志保は互いに顔を見合い、納得したようにこくりと頷く。どうせならいち早く条件に合う人物を探し出し一位になって欲しい。そんなのんきな事を考えている二人。
 しかし次の瞬間、二人の瞳は驚愕の感情と共に大きく開かれた。
「総務部の子だよね!? ごめん、ちょっと一緒に来て!」
 懸命に走っていた大樹は、とある場所で立ち止まり、目の前に居る人物の腕を掴むと、共に来て欲しいと訴える。
 大樹が共に来て欲しいと頼んだ相手の姿を見た瞬間、響子に更なる驚きの感情が襲いかかった。
「えっ……私?」
 突如大樹に腕を掴まれた事に驚きを隠せず、志保は掴まれていない方の手で思わず自分自身を指差した。
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