契約書は婚姻届

22.小さく揺れる手

 響子が風邪で寝込んでから三ヶ月が経過し、季節は未だ残暑が厳しい九月になった。
 風邪を引いたあの日以降、響子は完璧に治るまでと数日間会社を休む事になってしまった。
 その間、大樹は妻の看病をつきっきりで行った。響子がいくら大丈夫だと言っても、彼が首を縦に振る事は無く、大樹の出勤許可が出るまでの間、彼女は家から一歩も出る事が出来なかった。
 そんな日々が続いたせいか、響子の中で、夫に対する印象に頑固という新たなワードが追加されていた。
『風邪を侮っちゃいけないんだから。治ったと思って会社に行って、周りの人が具合悪くなったら響子ちゃんだって嫌でしょ?』
 響子が出社しようとする度、大樹は毎回そう言って妻の外出を阻止していた。
 自分が無理をするのは別に構わないが、そのせいで周りに居る社員達に風邪を移してしまっては大変だ。夫にこんな事を言われているのに、それを無視して出社する程、図太い神経の持ち主では無い。
『ちゃんとマスクして行きますから』
『マスクしたって、咳やくしゃみをすれば菌は外に飛ぶんだから。はいはい、文句言わずに部屋に戻ってくださーい』
 まるで病室を抜け出した患者を連れ戻す看護師のように、出社出来ない事に不満顔な妻を大樹は毎回部屋へ連れていくのだった。



 ある平日の夜、夕食を食べ終えた響子は、キッチンで食器の後片付けをしていた。
 一人暮らしを始めてから、そしてこの家に来てからしばらくの間は一人分だった片付けが、今では二人分に変わった。二人分の食器の後片付けも手慣れた様子で、彼女は次々と汚れた食器を洗っていく。
 遠くの方から、微かにシャワーがの音が聞こえてきた。夕食を終えた今、大樹は一足早くお風呂に入っている。
 響子が片付けをしている間に大樹が風呂に入り、その後響子が風呂に入っている間大樹はリビングでビールを飲み寛ぐ。最近は、これが二人の食事後の行動パターンになっていた。
「…………」
 汚れを落とし終わった食器を布巾で拭きながら、響子は数か月前の事を思い出す。
『少し甘えてくれたっていいじゃない。俺じゃ全然頼りないかもしれないけどさ』
 風邪を引いたあの日、夫が自分に対して言った言葉は、今になっても時折思い出す事がある。言葉と共に思い出すものは他に二つあった。
 一つは、あの日気付いた自分の気持ち。自分は夫である大樹に対し明らかに好意を抱いている。それを響子は改めて自覚した。しかし、この想いを伝える機会は今後一生無いのだという事も、彼女は理解している。
 そしてもう一つ思い出すもの、それはあの日初めて交わした口付けの感触だ。自分が言った冗談がきっかけで、夫が自棄になり唇を重ねた。少々ざらついた唇、そして口元に当たり、くすぐったかった大樹の無精ひげ。
 後で文句は言うな言い、少々乱暴に肩を掴まれた。なのに、幾度となく重ねられた口付けは驚く程優しく、戸惑いを隠せなかった。
「……はぁ」
 響子は溜息を吐きながら、無意識に食器を持っていない手で自身の唇に触れる。
 今でも時々思い出してしまうあの日の出来事。それと同時に、あれはもしかして、熱のせいで自分が見た夢なのではと思う事がある。
 そう思ってしまう原因は、大樹の態度にあった。あれから、特に大樹の言動に変わった様子は無く、今まで通りに接してくる毎日が続いている。
 一緒に食事をし、二人の時間が合えばアニメを見る。風邪を引いてしまったあの日の事など、まったく無かったかのような日々を過ごしていた。
 夫の事を改めて自覚したあの日から既に数か月。別に気持ちを伝えようとは思っていない。今まで通りの暮らしで十分楽しいし、これ以上を望む事などまったく考えていない。
 そう思っていても、あまりに普通過ぎる大樹の態度に、響子は少しばかり悩んでいた。
 別に、またキスが出来たらいいなんて思っていない。否、ほんの僅かには思っているのかもしれない。だからと言って、自分から積極的に行動する気は無かった。
 今、響子の心の中の大部分を占めているのは、大樹に対する悔しさだ。
 あの日交わしたキスの事で、未だに自分が頭を悩ませているのは紛れもない事実。思い出すだけで妙にドキドキしたり、恥ずかしくなったり、と二十六歳にもなって、まるで初恋に戸惑う学生のように悩んでいる自分。
 そんな彼女とは対照的に、あの日の事などまったく無かったかのように毎日を送っている夫を見ていると、日に日に悔しさが増していく。
 響子自身、今までの人生で恋人が居なかったわけでは無い。人数は多く無いが、それなりの恋愛はしてきたはずだ。
 自分より年上の大樹も、別に今まで交際経験が無いというわけではないだろう。過去に好きになり付き合った女性が居るに違いない。
 それぞれについて頭では理解していても、夫の態度を見ていると少々不満に思ってしまうのは変わらない。その点大樹は特に変わった様子は無い。これが年上の余裕というやつなのだろうか。
「響子ちゃーん」
「っ!? は、はーい」
 その時、突然浴室に居るはずの夫の声が聞こえた。一気に現実に引き戻された響子は、咄嗟に持っていた食器を流し台横の調理スペースに置き、いつもより大きな声で返事をする。多少大きな声を出しても、このマンションは防音がしっかりししているらしいので大丈夫だろう。
「ごめーん、シャンプー無くなっちゃったみたいでさ。替えってあったっけー?」
 浴室で大声を発しているせいなのか、少しばかり響いて聞こえる夫の声は、いつも使用しているシャンプーが切れている事を知らせるものだった。
「うわっ、新しいの入れておくの忘れてた」
 夫の声に、響子は自分の失態に気付き、焦りを隠せない。昨夜使用した時、詰め替え用のシャンプーを容器に入れなければと思いながら、忙しさを理由にすっかり忘れていたのだ。
「今、新しいの持って行きますからー!」
 響子は浴室に居る夫に聞こえるようにと大きな声で返事をし、詰め替え用のシャンプーを大樹のもとへ届けるため、急いでキッチンを飛び出した。



 それから数日経った日曜日。響子は、自室で外出のために準備をしていた。たまには自分へのご褒美にと、秋物の洋服を買いに行く事にしたのだ。
「んー。……よし、オッケー」
 部屋に置いてある姿見の前で自身の服装と化粧の最終チェックをし、彼女は満足そうに頷いた。出掛けるための準備を済ませた響子は、傍に置いてあったバッグを手に取り、ドアへ近付く。
「おっ?」
 そして、ドアノブに手を掛け、手前へドアを引き開けた瞬間、自分以外の声が聞こえ、視界に突然大樹の姿が飛び込んできた。
 どうやら彼は、ドアをノックしようとしていたらしく、右手を軽く握った状態で手の甲を妻の方へ向け、自分の胸元くらいの高さまで掲げている。ノックしようとしたドアが突然開いた事に驚いたのか、大樹は状況を理解するまでの数秒間、そのままのポーズで固まっていた。
「大樹さん、どうしたんですか?」
 夫がこの部屋を訪ねてくる事なんて初めてではないだろうか。響子はそんな事を考えながら、目の前に居る彼を見上げ、首を傾げる。
「あー、うん。ちょっと外出て来ようかと思って、一応言っといた方がいいかなって。ってか、響子ちゃんもどこか出掛ける予定だった?」
 妻の問いかけに大樹は中途半端に上げていた手を下ろすと、自分がここに来た目的を話した後、響子に対し問いかけてきた。
 休日に出掛ける時、大樹は毎回きちんと妻に外出を報告してくる。これは最早癖のようなものなのだろうか。本当に律儀な人だと笑ってしまいたくなるのを我慢しながら、響子は口を開いた。
「新しい服でも見に行こうかと思ってるんです。秋物で何か気に入ったのがあれば買いたいなって」
 響子は自分のこれからの予定を大樹へ告げる。
「へー、そっか。どの辺りに行くつもり?」
 大樹の問いかけに、響子はこれから行こうとしていた場所の名前を告げた。彼女はここからあまり離れていない繁華街に行く予定のようだ。
「そりゃ偶然。俺もね、そこ行こうとしてたんだー。欲しい本があるんだけど、結構大きい所じゃないと売ってないみたいでね。ほら、あそこ大きい本屋さんあるでしょ」
「あぁ、あそこですね」
 大樹の言葉に、彼が行きたがっている場所を理解したのか、響子は数回頷いた。
 夫が行きたがっている場所は、かなり大型書店のため様々なジャンルの本が揃っていると評判が良い店だ。彼がどんな本を欲しがっているかはわからないが、きっとそこで購入する事が出来るだろう。
 それにしても、あんなに大きな書店に行こうと思う程の本とは一体どのようなものだ。マイナーな小説だろうか、それとも何かの専門書なのか。大樹が買おうとしている本に、少しばかり響子は興味を持った。
「どうせなら……一緒に行く?」
「……へっ?」
 どんな本を買うのか聞いてしまおうか。そんな事を考えていた時、突然夫の口から発せられた言葉に反応が遅れる。そしてその意味を理解した響子の口からは、随分と間抜けな声が飛び出した。



「うーん、やっぱり人多いなー。流石日曜日」
 響子は、その後大樹と共に外出し、二人の目的地でもある繁華街へやってきた。隣から聞こえてきた暢気な声に、彼女は思わず視線を向ける。
 繁華街という場所柄なのか、それとも休日のためなのか、二人の周りは道を行き交う人々で溢れている。そんな光景を見て、響子は、元日に夫と行った初詣の風景とどこか似ていると感じていた。
 家を出る前、大樹は妻に対し、移動手段をどうするかと尋ねてきた。彼から提案されたのは、自分の車、タクシー、そして徒歩という三つの選択肢だった。
 大樹の車を使っても、店の駐車場を利用出来るか分からないため、一番目の選択肢は即却下された。タクシーを使うという手もあったが、自宅から繁華街まで少々距離があるものの、歩けない程ではなかった。
『もし大樹さんが良ければ……歩いて行きませんか?』
『いいよ。歩いて少しは脂肪燃焼しなくちゃ。そうじゃなきゃ、俺のお腹やばい』
 深刻そうな顔で自身のお腹を見つめていた姿を思い出し、笑い出しそうになるのを響子はしばし我慢する。街中でいきなり笑い出すなど、どんな目で見られるかわかったもんじゃない。
 移動手段はあっさりと徒歩に決まり、二人は何気ない話をしながらのんびりとこの場所へやってきたのだ。
『響子ちゃん疲れてない? 疲れたならタクシー拾うよ』
 移動中も、何かと気を遣ってくれる夫の姿に、彼女の心はあたたかくなるばかりだった。
 響子は内心、大樹から提案された選択肢の中に、電車での移動が無かった事に安堵していた。あの出来事以来、彼女は一度も電車に乗っていない。大丈夫だと思っていても、また同じ体験をするのでは無いかという恐怖が頭の中から消える事は無かった。
 そんな妻の状況を理解していたとは到底思えないが、大樹の無意識な選択に本当に彼女は感謝している。
「これだけ混んでたら、下手すりゃ大人でも迷子になるんじゃないの? 小さい子供なんて尚更だな」
 流石の大樹も、目の前の混雑ぶりに驚いているのか、先程からぶつぶつと文句を言っている。
「本当ですね。お父さんやお母さんが、子供の手をしっかり握ってないとはぐれちゃうだろうな」
 隣から聞こえる夫の発言に同意を示し、響子は数回頷いてみせる。大樹が言っていた通り、この人混みでは迷子の子供が居ても不思議ではないだろう。
「はい。良かったらどうぞ」
 その時、不意に目の前に差し出された左手、そして頭上から聞こえた夫の声に、何事かと視線を向ける。
「響子ちゃんと、はぐれちゃったら大変だから……って、嫌だよね、いい歳した大人なんだし」
 妻の不思議そうな視線に気付いたのか、苦笑しながら今のは無しね、と大樹は差し出した手を引っ込めようとする。しかし響子はその手を急いで掴んだ。妻の突然の行動に驚いたのか、大樹は一瞬目を見開く。
「いくら携帯持ってるって言っても、はぐれたらお互い探すの大変ですもんね」
 小さく笑みを浮かべながら夫の顔を見上げ、響子は口を開いた。
「そうだね。俺、場所の説明とか苦手なんだよ」
 妻の言葉に小さな笑みを浮かべたかと思えば、場所の説明は苦手だと苦笑する大樹。
 自分より小さな妻の手をしっかりと握り直すと、行こうかと大樹は歩みを進める。そして響子は夫の隣をゆっくりと歩き始める。繋がった手は二人の間で小さく揺れ続け、移動の間決して離れる事は無かった。



「それじゃ、あっちの本屋さん見てくるから」
「はい、わかりました。終わったら携帯に電話しますね」
 しばらくの間繁華街を歩きまわっていた二人だったが、響子が気になるアパレルショップを見つけ、その場所がたまたま大樹が行く予定の本屋の近くという事もあり、二人はそれぞれ別行動を取る事になった。
 自分の買い物が終わったら夫の携帯電話に連絡を入れるという確認を取った後、響子は早速、ショップ内へ足を踏み入れる。
 店内には、二十代の女性をターゲットにした様々な種類の洋服が並んでいた。可愛らしさを意識した洋服から、大人っぽさを意識した物まで揃っている店内には、響子の他にもたくさんの女性客で溢れている。
「……迷っちゃうな」
 久しぶりに新しい服を購入するとなれば、やはり慎重に選んでしまう。気になった商品を手に取っては戻し、また手に取っては戻しと、しばらくの間彼女は店内を歩き回った。
 店内を一通り見て回った響子は、入り口近くのコーナーに置いてある服が気になったのか、再びショップの入口付近へ戻ってきた。
「……あれ?」
 その時、自身の視界に映った光景に、彼女は思わず首を傾げた。
 この店は、入り口の左右にマネキンの展示スペースが設けられている。そこはガラス張りになっているため、店の外からも、店内からも、マネキンが着ている服をチェックする事が出来るようになっていた。
 そのため、マネキンが数体置かれたそのスペースから、外の様子が少しばかり見えてしまう。きっと、外からもこちらの様子が少し見えるのだろう。
 マネキンとマネキンの間に見える、妙に見慣れた背中に、響子はしばし首を傾げる。その後ろ姿は、大樹を連想させるものだった。
 服装も今日夫が着ていた物に酷似しているし、あのボサボサの髪も見慣れたものだ。しかし、彼は先程本屋に行くと言い別れたはず。もしかしてもう買い物を終えて待っているのだろうか。
「ご試着なさいますか?」
 その時、突然店員から声を掛けられ、慌てて響子は声が聞こえた方向へ顔を向けた。そこには笑顔の女性店員の姿があり、響子は内心少し焦りを感じ始める。彼女が持っていたレギンスパンツを見て、店員は話しかけてきたのだろう。
 買い物中に店員に声を掛けられるという展開が、響子は少し苦手だ。本当に困っている時に声を掛けてもらうのは嬉しいが、そうでは無い場合、自分一人でゆっくり商品を選びたいと思っている。声を掛けられてしまった以上、一秒でも早く店員の女性と距離をとらなければいけない。話し込んでしまっては、店員のペースに持って行かれてしまう。
「あ、試着は大丈夫です。他にもゆっくり見てみます」
 咄嗟に口から出た言葉だったが、店員の女性はすぐに離れて行った。その様子を見ながら、響子は自分で自分を褒めたい気分だった。せっかく声を掛けてくれた店員の女性に対しては申し訳無いが、ゆっくり自分の目で選びたいという気持ちも本心だ。
 響子は、安堵した様子で手に持っていたレギンスパンツを元の場所へ戻す。そして、無意識にマネキンが置かれたスペースへ視線を向ける。しかし、既にそこには誰も立っていなかった。



 結局、コート代わりにもなるだろうと思い、響子はベージュ色のロングカーディガンを購入した。
 会計を終え商品が入った袋を受け取った彼女は、足早にショップの外へ向かう。
「……やっぱりいない」
 外に出て夫の姿を探すが、付近にそれらしき人は見当たらなかった。
 人々が行き交う中、邪魔になってはいけないと、マネキンの展示スペース前へ移動する。先程この場所に立っていた人物が大樹に見えたのは、自分の勘違いによるただの間違いなのだろうか。
「ごめんごめん、待たせちゃったかな」
 そんな事を考えていると、妻のもとへ近付いてくる大樹の姿に気付き、響子は彼の方へ歩み寄った。
「いいえ、全然待ってませんよ。本……買ってないんですか?」
 夫の言葉に小さく首を横に振った響子は、大樹が手に何も持っていない事に気付き、彼の顔を見上げ問いかける。
「それがさ、店員さんに聞いたんだけど無かったんだよね、その本。ま、ネット通販って手もあるから、それに頼った方がいいかな」
 あそこならあると思ったんだけど、と苦笑する夫の姿に、響子はショップの店内で見た人物の後ろ姿を思い出す。やはり髪型や服装などが酷似している。あの場に居たのは大樹なのかもしれない。
「あの……大樹さん、さっきあそこに居ました? 十分くらい前なんですけど」
 響子は真相を確かめるためと、つい先程自分が立っていた展示スペース前を指差しながら夫に問い掛ける。
「えっ? ううん、居ないよ。響子ちゃんと別れてから、ずっと本屋の中ウロウロしてたから」
 首を横に振る夫の様子を目にし、あれは自分の見間違いだった、と響子は自分の中で結論を出す事にした。
「あ、袋持ってるって事は、何かいい服買えたのかな?」
「はい、コート代わりにもなると思って……」
 その後、二人は再び互いの手を握り、他愛もない話をしながら自宅のあるマンションへと帰っていった。



 話は少しばかりさかのぼる。それは、響子が買い物を終え、大樹と合流する十分程前の事だった。
「さーて、どうしよっかなー」
 妻と別れ本屋に向かったはずの大樹は、何故か妻が買い物をしているアパレルショップ前に一人佇んでいた。
 マネキンが展示されているスペースに張られたガラスに背中を預け、彼は一人悩み始める。
「別に……買いたい本なんて無いんだよな」
 響子と共に外出し、彼女は服を、大樹は本を探すと言って別れたのはいいが、元々彼には買いに来る本など無かった。
 マンションの近所を散歩でもするかと思い、妻に報告しに行ったはずなのに、何故か二人一緒に繁華街まで来ていた。
「はぁ……」
 自分自身の行動を思い返し、大樹が吐いた溜息は、行き交う人混みの中へ消えていく。
「一緒に居たくて嘘ついた、なんて……恥ずかしすぎて言えるわけないか」
 自分の口から出た言葉に、彼は苦笑いを浮かべるしかない。
「……まったく行かないのもあれだし、暇つぶしも兼ねて本屋行ってみるか」
 そう言って大樹は、一度大きく伸びをし、本屋へ向かうためにと人混みに紛れ歩き出す。
 それから十分後、合流した妻からの問いかけに、彼は小さな嘘をついた。
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